御嶽訴訟の判決文(3)
2022-09-01


5.火山噴火警戒レベル

 そんなわけで、本訴訟の最大の争点は、噴火警戒レベル導入の可否ではなく、御岳山の噴火警戒レベルを1に据え置いたことが違法か合法かである。噴火警戒レベルの一覧と、その判定基準を図1と図2にそれぞれ示す(以下、判決文に準じて、図1を「本件噴火警戒レベル」、図2を「本件判定基準」と略称する)。噴火時においてレベル2が発出されていたら、火口周辺への立ち入りが規制されるため、登山者に被害は出なかったと考えられる。レベル1から2へレベルを上げる条件は、本件判定基準にあるように「火口周辺に影響をおよぼす噴火の発生」、あるいは「火口周辺に影響をおよぼす噴火の可能性」がある場合である。どういう観測がされると噴火の可能性があると言えるかについて、本件判定基準の枠内に、「次のいずれかが観測された場合」とあって、「火口周辺に降灰する程度のごく小規模な噴火」、「火山性微動の増加または規模増大」、「火山性地震の増加(地震回数が50回/日以上)」、「山体の膨張を示すわずかな地殻変動」、「噴煙量、火山ガス放出量の増加 等」と記されている。

 

6.判定基準欄外記載の「総合的判断」はどう解釈されるべきか

 実際に噴火が起きたのは2014927日だが、その前の910日と11日に火山性地震がそれぞれ52回と85回発生した。その多くが御嶽主峰の剣が峰直下の深さ02kmの浅い場所で発生した(判決文p.53p.56)。しかし、気象庁は噴火警戒レベルを1に据え置いたまま、911日午前1020分に「火山の状況に関する解説情報1」(図3)を発表した(以下、「本件解説情報1」)。本件解説情報1は、地震の回数など観測されたことの簡単な報告だけで、立ち入り規制や避難の必要性などには言及していない。

1から2へのレベル上げの条件の一つである、50回/日を越える火山性地震が観測されたにも関わらず、レベル上げをしなかった理由として、被告国は次のように主張する。

「これは(筆者注:本件判定基準)、79年噴火、91年噴火及び07年噴火に伴い発生した現象の観測結果等を基に作成されたものであって、合理的な基準である。また、欄外の「これらの基準は目安として、上記以外の観測データ等も踏まえ総合的に判断する」との記載は、本件噴火当時の判定基準として一般的であった上、御岳山の場合、常時観測を開始してから発生した噴火の回数が多いとはいえず、過去の噴火事例が少ないことから、一般的な噴火の予測手法も踏まえ、過去の噴火事例や観測データ等の様々な情報から総合的判断することとするものであり、合法的である。」(判決文p.16


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